- 土屋博之 -
5年前に小児外科の仲間と開業して以来、小児の患者さんの増加に伴い、毎年12月後半になると今期のインフルエンザの流行に敏感になってくる。
流行の最盛期にもなると診断(鼻腔内鼻汁検査)と治療(薬:タミフル)を求めて患者さんが殺到してくる。2年前には日本唯一の某製薬会社の薬の供給がまにあわず、
さらに迅速検査キットも無くなり、それを求めて患者さんは病院をはしごするという最悪の状況が脳裏をかすめる。今年はその経験から薬の製造・備蓄も完備しているとの報告を受け、
検査キットも確保し、又当クリニック外来患者の80%前後が小児でもあり感染症疾患に対しての外来感染室の2部屋の造設を平成16年11月に完成し、インフルエンザに立ち向かう態勢を整えた。
平成17年1月の中旬になるも大流行の兆し無く、インフルエンザの予防注射受験者の増加の効果もあるのかとほっとしていたのだが、2月に入ると急激に増加し建国記念日の11日前後にはピークとなった。
当クリニックは定点小児感染症疾患の報告をしており毎週その結果報告を受けているが、今期のインフルエンザ流行は過去5年間のうち1番ピークが遅れ最高の頂となった(図)。
当クリニックは午前8時から午後8時までの休日無しの診療体制であり、特に祝祭日における周辺医療機関、特に小児を扱うクリニックは少なく、又夜間患者診療所あるいは救急病院では
インフルエンザ検査は施行せず1日の投薬のみという事もあってか、2月11日、12日13日の外来患者数は1日300人以上と異常の数となった(図)。
患者さんは高熱と3〜4時間待ち(目いっぱい努力しても患者を診れる限界があります)でグッタリとなり、外来終了時間も午後11時30分にずれこみ、また当クリニックの終了時間にともない
院外処方薬局は午前0時過ぎとなり、患者さんも医療関係者も肉体的精神的にも限界になっていた。特に、お子さんが熱性痙攣でも起こすとご両親は周章狼狽し、医療スタッフも
その処置(酸素吸入、痙攣止め坐薬挿入、点滴など)に追われる。マスコミでインフルエンザの脳炎などの合併症について報道されると、37度台の微熱でも心配で検査と治療を希望し、
特に保育園や幼稚園が終了した午後6時過ぎに殺到する。しかし現在の迅速検査キットでも高熱が出てある程度の時間(経験上少なくとも6時間前後)が経過しないと反応しない。
従って患者さんによっては翌日の再検査となる。又、迅速といっても10〜15分をようし鼻腔内奥の鼻汁採取で苦痛を伴い、お互い大変な思いで検査することになる。
これら一連の状況をインフルエンザ・パニック症候群と名ずけてみました。昨年造設した感染室は、インフルエンザ流行期にはその患者さんがあまりに多く、
その為むしろ非感染患者(乳児検査、主に小児ソケイヘルニアの日帰り手術患者など)用に使用されることになった。今回の爆発的な流行は、2月に入ってからのA型とB型インフルエンザの同時流行と、
印象として予防注射の効果が小児には比較的低かったのではないかなどが考えられる。
さてこの様なインフルエンザ・パニック症候群に陥らない様にするにはどうしたらいいのでしょうか。第一に予防対策です。インフルエンザ予防注射の勧めとより効果のある
注射の改良(お願いするのみですが)、又マスク着用、手洗いやうがいの励行などの一般的注意などです。流行に直接関係すると考えられるのが予防注射ですが、
これが病院によって価格がバラバラで、保険適用は無く多くは3,000円から4,000円の範囲で設定されていると思いますが、小児の場合注射の効果を考え2回注射すると一人あたり
6,000円から8,000円の負担となります。お子さんが多いと、その負担は若い夫婦が多いだけに大きいものがあります。まして、2回予防注射したにもかかわらず、
インフルエンザのA型とB型それぞれに罹患したのでは、どこに恨みをぶつけましょうか?以前ある病院が予防注射をかかえこみ(患者さんを増やし収益をだすため?)注射不足は論外ですが、
より安価で安定した注射供給が望まれます。さらに、院内感染予防で重要なのが外来における感染患者さんの隔離です。
病院の多くは感染部屋が併設されていますが、クリニックでは未だ併設しているのは少ないと思われます。当クリニックも2部屋を昨年11月に造設しましたが、
インフルエンザ流行期には、逆に非感染部屋として利用する状況になった。
第2に現場での対応ですが、患者さんとご家族は不安とイライラで殺気だっていますので、医療関係者は出来るだけあわてず落ち着いて安心を与えるように行動しなければなりません。
しかし今年のようにインフルエンザ流行期になるとお互い疲労困憊し限界に達して来ます。その解決には、医療側として医師のマンパワー、地域医療を担う小児医療機関、財政援助の増加などが
考えられます。どれ一つとっても容易く解決するものではありませんが、医療機関の機能をつくる上で、大学病院は多くの医師を抱え込むのではなく医師の能力にあった
適材適所で独立した医師を養成し、地域医療を担う流れを作っていただきたいと望むものです。
さて、さしあたって来期のインフルエンザ対策はどうしたらいいのでしょうか?残念ながら当クリニックではスタッフ常勤医師の開業もあり、マンパワーの不足から休日無しの診療体制は
継続するものの診療時間の短縮(午前9時から6時)をせざるをえなくなった。この様な状況下ですから、どうかインフルエンザが流行しませんように今から天を仰ぎ祈って、頭を抱えています。 |